新老楼快悔 第152話 語源って、面白い

新老楼快悔 第152話 語源って、面白い


 普段、何気なく使っている日本語だが、その語源を辿っていくと、びっくりするほど面白い。朝の挨拶の「おはよう」は「朝早くから機嫌がいいですねぇ」と交わす言葉から。「さようなら」は、「さようならば、これにて」から生まれたものという。
 では催し物でよく用いられる「皮切り」の語源は何かというと、「お灸」なのだという。お灸の最初のひとすえは、まるで身を切られるようだから、ですって。
「牛耳る」は支配する意味だが、語源は中国のある盟主が家臣と同盟を結ぶ時、牛の耳を裂いてその血を吸って同盟を誓ったことから出た言葉というから、凄いっ。
「下駄を預ける」はもともと遊廓や芝居小屋から来たもの。下足番に下駄を預けた、つまりすべて預けた、もう逃げられない、どうなっても構わないとの意。映画館に入るのに靴履きのまま入る現代では想像もできないですね。
「切羽つまる」はなんと刀から来たという。刀の鍔(つば)の柄(つか)と鞘にあたる両面についている薄い楕円形の金具を「切羽」と呼ぶ。中央に刀身を通す孔があり、この孔がつまると刀身を通すことができなくなる。すると抜き差しならぬ事態になるってわけ。
「埒(らち)が開かない」も面白い。競馬場の周囲の低い柵を埒といい、開けてはならぬものとされるが、本当は神輿前の埒を開いて参拝するの意。埒を結びて人を妄りに寄せつけないのが埒、なのだそう。
「腑(ふ)に落ちない」は五臓六腑の六腑(胃、胆、大腸、小腸、膀胱、三焦)、つまりはらわたを指す。食べたものが収まるべきところに収まらないような不快感を指す。「腹の虫が治まらない」という言葉もあるように、人間の体感を表現したもの。
「べそをかく」のべそは、圧口(へしぐち)のへしがはまったもので、唇に力をこめて抑えつけた口の形から来たという。
「ぽしゃる」はフランス語から。ポシャは、シャッポのシャとポを逆にしたもの。シャッポをぬぐ、降参するから、だめになるの意に用いられるのはご承知の通り。
「お転婆」はオランダ語のオンテンバールから来たといい、負けん気の強い女の子を指す。オランダだけでなくわが国にも昔から「転婆」という言葉があった。足早に歩く女の子の様子を指した「テバテバ」説や、江戸時代の交通機関「伝馬」説もある。
「野暮(やぼ)」は、無粋者、田舎者を指すが、語源は雅楽の「しょう」から来たというから驚く。しょうは17本あるが、「也」と「亡」は見かけだけで音が出ない。そこから融通のきかない無骨者を「也」「亡」(ヤボ)といった。
「おやつ」は昼間に食べるお菓子を指すが、もともとは時刻から出た言葉だったとは。昔は昼と夜にわけ、数で時刻を表していた。八つというのは真夜中の午前2時と白昼の午後2時を指す。昼の八つは「おやつ」といって子どもたちに菓子が配られたわけ。
 最後に「面白い」って何? 諸説あるが、一番“面白い”説を挙げると、昔、火を囲んで人々が仕事をしている時、一人が立ち上がって興味ある話を始めたら、皆が一斉に顔を上げた。その顔が火に照らされて白く浮かんだ。その楽しそうな顔が並んでいる状態を、「面白い」という言葉が生まれたんだって!
 言葉って、奥が深くて、面白いですねぇ。以上は『ことわざ小辞典』から。


2024年7月26日


老楼快悔トップページ
柏艪舎トップページ