新老楼快悔 第145話 『泥流地帯』をめぐる思い出

新老楼快悔 第145話 『泥流地帯』をめぐる思い出


 上富良野町の「郷土をさぐる会」の中村有秀会長から機関誌『郷土をさぐる』(第41号)が贈られてきた。一昨年、同会から依頼されて三浦綾子著『泥流地帯』の取材に関する資料を届けたことへの感謝の便りも添えられていた。
 三浦さん夫妻と知り合ったのは四〇年以上も前、北海道新聞旭川支社に勤務していて、三浦さんの連載小説の担当になり、上富良野町への取材に同行して当時を知る被災者から話を聞くなどした。北海道新聞紙上で連載が始まり、毎週金曜日に自宅に赴いて原稿は受け取り、札幌本社に送った。
 連載が終わり、書籍として出版されて、地元主催の出版記念会が開かれた時は、夫妻ともども出席した。あの時の夫妻の喜びようは忘れられない。
 そんな関わりから、夫妻が亡くなっても上富良野町との交流が続いているが、中村さんの便りによると、二度も失敗した『泥流地帯』の映画化が、滝田洋二郎監督により二〇二六年の封切りを目指して動きだしたという。上富良野大正噴火(一九二六年)百年作品になる予定だといい、心の底から快哉を叫んだ。
 文面はさらに続いて「泥流地帯・朗読と紙芝居」が五月一二日午前と午後の二回、札幌市の渡辺淳一文学館で開催されること、また七月七日から九日にかけて上富良野町で「童謡と合唱フェスティバル」が開催され、そこになんと小生の長男、道人が出演する話まで知らされ、ただただ驚いた。
 そういえば先日、妻に「こんど北海道へ行く」と連絡があったといい、ああ、このことかと合点した。実は息子は、私より三浦夫妻と付き合いが深い。旭川に着任して住んだマンションが三浦家のすぐ近く。中学生だった息子は日曜日になると三浦家に出かけ、オルガンを弾いていた。ある日、綾子さんから冗談まぎれに「家の子にくれない」といわれ、大慌てした思い出がある。
 その後、我々一家は札幌に転勤になったが、三浦家との繋がりは続き、後に綾子さんが小学生時代に書いた詩が発見された時、息子が自ら申し出てその詩に曲をつけた。その歌を倍賞千恵子さんが歌い、NHK「みんなの歌」で放送された経緯がある。
 上富良野町の人々の三浦文学への思いはことのほか強く感じるが、それだけに「童謡と合唱フェスティバル」が、三浦文学と融合してどんな舞台を見せるのか。いまから開演の日が待ち遠しく感じる。





2024年6月7日


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