新老楼快悔 第126話 雪まつりの人波は平和のバロメーター
さっぽろ雪まつりを、万感の思いで迎えた。札幌に移り住んですでに46年。人生のほぼ半分をこの地で送った。毎年、雪まつりを見るたびに、転勤づくめだった前半世紀を思い、この地が終の住処になるのを実感している。
雪まつりを初めて見たのは、旭川から札幌へ転勤した昭和51年(1976)2月。会社前が雪まつり会場なので、暇を見つけては雪像の前にたたずみ、見ほれた。
その後、異動で系列会社に移り、夢にも思わなかった雪まつり会場の一郭の運営を担当した。「雪が降った」と言っては喜び、暖気になると「雪像が崩れる」と心配した。人出がどれくらいかなど軽く推定できる術も身につけた。6年後に本体へ戻り、雪まつりとの縁は切れたが、しばらくの間この時期になると、なぜか心が騒いだものだ。
今年も、NHK札幌局が雪まつりに合わせて「九丁目怪談会~氷点下の怖さ 人気声優が語る冬の怪談」の公開収録があると知り、帰郷中の娘と同行して出かけた。出演者は司会役のお笑いタレント島田秀平、アシスタントの小川華果をはじめ、岡本信彦、神谷浩史、野水伊織、それに怪談師の匠平ら。前回を凌ぐ豪華メンバーだ。その中で私の本の中の一編が朗読されるのだという。
スタジオに入ると満員の盛況。多数の応募者の中から、抽選で選ばれた人たちで、中には本州から来ている人もいると聞かされ、驚いた。
舞台がとんとんと進んで、私の作品3編が読み上げられた。このうち『駆ける白い馬』は以前、H氏から聞いた少年時代の思い出をまとめたもの。雪が降る日に白い馬を見たら必ず死ぬ、という怖い話だ。
聞きながら、遠い日のH氏を思い出していた。まだ新聞社に勤務していた頃だから40年も前。その日もぶらりとやってきて、「きょうは外、ふぶいてますよ」と言いながら、この話をした。脳裏に残った。
いつもこの人は、こんな調子なのだ。職業不詳、博識多弁、ただし浜弁。しゃべりだしたらとまらない。だから誰も相手にしない。そこで机に向かっている私の側にきて、しゃべりだすのだ。こちらはまたきたか、という感じで、適当に相槌を打ちながら書き続ける。そんななかで、ほほう、と思ったのがこの話だ。亡くなってもう随分経つ。
外へ出ると小雪が舞っていた。人の波はまた少し増えたようだ。この祭りが続くかぎり、この人出が続くかぎり、平和なのだ、とおのれに言い聞かせていた。
放送はラジオNHK第1 2月23日午後9時5分から。
2024年2月9日
老楼快悔
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