新老楼快悔 第124話 年賀状の“ぬくもり”

新老楼快悔 第124話 年賀状の“ぬくもり”


 一月も半ばを過ぎて、元旦に届けられた年賀状を改めて読み返してみた。賀状の枚数はこれまでと比べて減少したが、反面、添え書きが増えたのが印象的に思えた。
 添え書きは短文だが、差し出し人柄を伝えているように思える。「昨年お目にかかれて嬉しかったです」と丁寧な文字で書かれていたのが、東京の出版社の女性編集者。なにかほのぼのとしたものを感じる。
 この編集者との付き合いは長い。もう20年以上も前になろうか。突然、電話があり、取材で上京中に初めて会い、執筆を頼まれた。即座に受けて書き上げたのが『北海道の地名 謎解き散歩』という文庫本。これが予想外に売れて、次に『札幌謎解き散歩』を書いたが、これも増刷になった。札幌までやってきた若い彼女を妻とともにススキノに案内して一献傾けあったものだ。
「新年はさらに精進します」と書き添えてきたのは後輩の新聞記者。昨年、『硫黄島上陸』という本を出版し、脚光を浴びた。新聞記者が本を出すと、社内の視線が冷たくなる。「仕事をさぼって本を書くとは」という批判だ。在職中に本を出した先輩として、「自分の道を貫け」と心の中で願っているが、これから先、どんな道を歩んでいくのか。
「いつのまにやら私も80歳を超えましたが、幸い元気なので、腰を据えてモノ書きに専念します」と書いて来たのは、ノンフィクション作家仲間の後輩の男性。ほかに「今年こそ、書きます」「己の思いを爆発させます」と宣言してきた中年男性や高齢女性もいて、頼もしい限りだ。
 もうひとつ、昨年、大腸ガンの手術を受けたことで、私の体調に対する見舞いの添え書きが目立った。丁重な文面に痛み入るばかりだが、その中に傑作なのが一枚。
「まだ! まだ! ……マダ! mada! お元気で!!」
 はい、元気でやります、と思わず年賀状を前に声を張り上げてから、改めて執筆への決意を固めた。いますでに決まっているのが、継続中の連載二件と、すでに提稿してゲラを待つばかりの出版本が二冊。そして依頼された講演が三件。うち二件は道南と道北だ。
 かくて家族の心配をよそに、いまから資料を固めておこうと、新年早々からよろめく足を踏みしめつつ図書館へ向かう。だが、目的の資料が見つからず、肩を落として帰ることもある。えてして取材とはこんなものなのだ。そこで愚作一句。

   あらたまの見え隠れする道一つ   一道




2024年1月26日


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