編集者のおすすめ本 〈2014年3月〉

編集者のおすすめ本 〈2014年3月〉

 柏艪舎スタッフが、ジャンルを問わず最近読んだ『おすすめ本』をご紹介していきます。

山本光伸
株式会社柏艪舎 代表取締役
愛犬と散歩するのが趣味。歩きすぎて犬が逃げ出すことも…。好きな作家は丸山健二。若い頃は、太宰治の作品にかなり影響を受けた。

今回もお休みです


山本基子
本と映画があれば即シアワセになれる。どれだけジャンクフードを食しても太らない(太れない)特異体質? 週1(夏場は週2)テニスで一応体力維持しているつもり。8歳になる愛犬柴わんこを溺愛。

『ケネディからの伝言』
落合信彦著 小学館文庫


 先日、「大統領の執事の涙」(原題:The Butler)という映画を試写会で観た。前評判を見聞きして少しでも封切りより早くに観たいと思っていた作品だ。感想は★★★★☆。
アイゼンハワーからレーガンまで、7人の大統領にホワイトハウスで仕えた黒人執事の実話に基づくストーリー。2時間15分の上映時間に、主人公の貧しい少年時代から始まり激動するアメリカの半世紀を詰め込んでいるのでかなり忙しくはあるが、アフリカ系アメリカ人の歴史、公民権運動、各大統領の人間性がわかりやすく、ヒューマンな視線をもって描かれている。
 この映画を観る数日前に、偶然読み始めていたのが『ケネディからの伝言』である。1993年に刊行された同名の著書に加筆・修正して昨年発行されたことも知らなかったし、恥ずかしながら落合氏の著書は雑誌のコラム以外読んだことがなかった。ケネディ暗殺50年にあたる昨年(2013年)は“ケネディ復習本”が続出した。本書もその1冊と言えるだろうが、キューバ危機、ヴェトナム戦争に代表される困難を、理想とする民主政治で乗り越えようとした(現実はそんなきれいごとではなかっただろうが)ケネディ兄弟(とキング牧師)の信念を彼らの数々の演説を紹介することで教えてくれる。名演説の英語原文と著者による日本語訳を併裁しているのもよい。
 著者自身がロバート・ケネディの大統領選出馬の際にボランティアとして参加したこともあって、ケネディ兄弟を理想化しているところが目立つが、それも当時の若者の情熱を伝えるものと言える。上記の映画も本書も、今の若い世代にぜひ観て、読んでほしい。


青山万里子
編集者。最近の担当書籍は『落ちてぞ滾つ』、『祭――感動!! 北海道の祭り大事典』、『老人と海』(5月刊行予定)など。その他、今年で10回目を迎える「翻訳コンクール」担当。
趣味は野球(札幌D観戦時はmy glove持参)、ゴルフ、麻雀など日々オジサン化が進行中。実家にいる愛犬タロウ(チワワ11歳)、カイ(キャバリア9歳)に週に1度会うことが楽しみ。

『さようなら、オレンジ』
岩城けい著 筑摩書房刊


 オーストラリアの田舎町を舞台にした、太宰治賞受賞(2013年)作品。
各紙ですでに絶賛されているので、手に取るのはためらわれたが、タイトルが気になって読んだところ、これがいい。
 アフリカから命からがら夫と息子二人と逃げてきた難民のサリマ、夫の仕事の都合により夢半ばで渡豪してきた日本人女性の“ハリネズミ”、移住して数十年になるというのに現地人の夫に依存しながら暮らしているイタリア人女性、彼女たち三人は語学学校で出会う。言葉が通じない土地で、それぞれに悲しみや苦しみを抱えつつも、次第に心を通わせ合って友情を築いていく過程や、異国の地で自分の居場所を探し求め、たくましく生きていこうとする姿には胸を打たれた。
 何か大きな事件が起こるわけでもなく、“生きる”という普遍のテーマを扱いながらも、読者を引き込むことができるのは、著者がオーストラリア在住二十年という経験の所以なのかもしれない。


可知佳恵
編集・営業・広報を担当しています。最近編集を担当した本は、鈴木邦男著『秘めてこそ力』、原子修著『龍馬異聞』、山本光伸著『誤訳も芸のうち』など。好きな作家は、コナン・ドイル、アーサー・ランサムなどですが、最近は仕事に関係する本ばかり読んでいます。

『完璧な母親』
まさきとしか著 幻冬舎刊


 札幌在住の作家、まさきとしかさんの新刊。3組の母と子の人生が複雑に交差するミステリ。愛情とは何か、幸せとは何かを考えさせられる。女の本音をえぐり出すように描かれており、それぞれの女性に自分を重ねながら読み進むうちに、著者に心の奥を見透かされたような気になってドキッとした。


山本哲平
編集部所属。製作主任。自費出版系の作品を主に担当。仕事絡みの本以外、なかなか読む時間が取れない。ので、書評の題材に困りそう。

『りぽぐら!』
西尾維新著 講談社ノベルス


 先日ふらっと立ち寄った書店で西尾維新の新作を目にした。なにやら今までのシリーズと毛色が違うようだったが、この作家の新刊ならば買わないわけにはいかない。
 というわけで、今回紹介したい書籍は、おなじみ西尾維新著の『りぽぐら!』だ。
 最初に断わっておくと、この書籍は間違いなく万人受けするものではない。
 私自身、これはどうなのだろう、と疑問を禁じ得なかった。
 本書は三編のショートストーリーから成っているのだが、三編の作品それぞれを『使用可能な五十音に制限を付けて書き分け』ているところがキモだ。
 例えば、一回目は制限無し、二回目は五十音のうち10文字が使用禁止、といった形で縛りをきつくしながら同じ内容のショートストーリーを四回書いているのだ。
 『言葉』の可能性を追求した作品と言えるが、同じ内容の短編を何度も読むのは正直辛いところがある。
 言い換えの妙を楽しむことは出来るものの、どうしたところで新たなタイプの奇書といったところだろう。
 元々雑誌の企画連載だし、これは単行本にしなくてもよかったのでは……





  

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