新老楼快悔 第104話 骨董市での出合い
札幌・豊平神社の祭りの日に骨董市が開かれると聞き、真夏の日曜日、神社を訪れた。境内に20軒ほどの店が並んでいた。時間がずれていたせいか、それほどの混雑はない。聞くと朝の早い時間に大勢の骨董ファンが押しかけ、大変な賑わいだったと知らされた。
さもありなん、と頷きながら、店を一店、一店、ゆっくり覗いていく。いきなり目に留まったのが掛け軸。子供のころ、わが家にあった「弁天の絵」によく似ている。しばし思い出に耽った。
あの頃、祭りになると、故郷のわが家に、香具師(やし)と呼ばれる人たちがやってきて手土産に、書なり絵なり文物を差し出すのだ。それを手にするのが嬉しくて、意味もわからず玩具のようにして遊び、いつしかゴミになって消えた。
そんな微かな追憶が、晩年になって時折、頭をもたげてくる。その思いを叶えてくれるのが祭りに開かれる骨董市なのだ。
というわけで、暑さにもめげず、店をはしごして回ろうと思い、一軒目でいきなり、面白い文物に出会った。「控帳」と表書きした明治末期から大正年間に用いた貸金業者の帳面。めくるといきなり「明治四十二年九月 金拾五円四十銭 大正四年三月〇五年一月也十一月利金」として氏名が書かれていた。
詳しくはわからないが、借金を期限までに払わなければ利子が重なることを示す書物らしい。読み進むうち「大正二年一月 金弐園五十銭 大正四年一月限利子不足」といったものが目につき、その時代を想起させるような文面に思わずうろたえた。
男性二人が連名で「四円六十八銭」を借金したり、それが親子兄弟であったりする。一カ月ごとに「四円」ずつ借りる人、三年間も高い金利を支払う人……。稀に女性名で借りたケースも見える。ステという女性は「八円」を二年半にわたり返済するが、「利子不足」と断定された。
ある男性は三年間で七回も借金し、「元利合計壱百弐拾四円弐拾四円弐拾五前」に達した、とか、「三円七十八銭」借りた男が期限まで返済できず、警察に突き出されたなど、せっぱ詰まったケースも見える。
一冊の控帳から「百年前の日本」の切ない一面を垣間見る思いがした。
2023年9月15日
老楼快悔
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