新老楼快悔 第102話 「昭和」を振り返って感じること
上京した僅かの時間を利用して、長く気にかけていた千代田区九段南の「昭和館」を訪ねた。戦中・戦後の国民の生活ぶりを次世代へ伝える国立の施設である。
入館してすぐ、資料公開コーナーが広がっている。驚かされたのは大勢の小学生たちの集団だ。都内の子どもたちで、歴史の学習に学級単位でやって来たのだという。中にはメモを取る姿も見られ、その熱心さに思わず頬が緩んだ。
そばに併設された「懐かしのニュースシアター」は戦中、戦後のニュース映画が放映されていて、高齢の筆者にはぴったりの内容。一気に少年時代に引きずり込まれた。画面は万歳万歳の声に送られて勇躍出征していく若者。一転、激しい戦争場面になり、勝鬨を挙げる日本兵…。
ああ、そうだった。小学生の筆者はこんなニュース映画に感動し、大きくなったら兵隊さんになり、御国のために尽くそうと、固く決意したものだった…。
常設展示室は入口が7階、出口が6階というので、エレベーターに乗り上階へ。展示室に入るなり、往時を思い出す陳列物に圧倒された。召集令状を受ける若者たち、いや中年の男性を含めて、「赤紙」と呼ばれたこの一枚の紙切れで出征しなければならなかった。
千人針というのは、出征する父や兄の無事を願って、妻や母らが街頭に立ち、通行中の女性に一片の布を差し出し、赤糸で一針ずつ縫ってもらい、千個の縫玉を作り上げる。出征兵士がそれを身につけたら、敵弾に当たらないといわれた。その布が見える。
隣には兵士が戦地から出した家族への便りが並ぶ。といっても便りは検閲されたというから、本音など書けなかった。そんな時代の家庭の様子が資料を用いて説明されている。
戦火が激しくなり、「国家総動員法」が発布され、厳しい統制下の中、国民の暮しは急速に悪化していく。本土に敵機が来襲し、国民は全員、防空頭巾をかぶって対応した。そうだ、あの時、上空を通過していくB29の機影を、防空壕の中から覗いた記憶がある。そして広島、長崎への原子爆弾が投下され、敗戦。そして廃墟と化した町々に復興への槌音が響きだす…。一つ一つ見ているうちに「昭和」という歴史が、敗戦を節目にして“戦争と平和”に真っ二つに割れているのを改めて実感した。
帰りに「双六でたどる戦中・戦後」という冊子を購入した。頁をめくる。時代への懐かしさを感じるとともに、戦(おのの)きのようなものが迫ってきて、体が震えた。
2023年9月1日
老楼快悔
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