新老楼快悔 第87話 孤高の版画家、阿部貞夫作品展
「やっと開催できることになりました」
友人でノンフィクション作家の森山祐吾さんから、阿部貞夫作品展の招待状を手渡されて、彼の長年の夢がやっと実現できるのを知り、心から祝福の言葉を贈った。
阿部貞夫は孤高の版画家といわれる。東京で生まれてすぐ、両親とともに留萌に移り、留萌高校を出るまで、厳しい北国の風土の中で育まれた。上京してペンキ店で働きながら、日本の伝統的な多色刷り板目木版画を学んだ。
終戦後、留萌に戻り、病身の妻を看護しながら、版画家になる希望を抱いて精進するが、自身も結核に感染する。どうにか始めた養鶏の仕事もうまくいかず、度重なる不運に失意に陥る。新天地を求めて釧路へ向かうが、妻を失う。自らの存在を問い直そうと阿寒の山に籠もり、大自然と対峙する中で、自らの生きる意味を感知する。
釧路に戻り、多くの人々に支えられながら作品を作り、さまざまな公募展に出品して頭角を現す。プロとして札幌へ移るが、病気にかかり、後妻もまた病に倒れる。だが「独り立つ精神」の信念と「祈る心」を抱きながら、魂から発する版画作品『林』『樹と人』『北辺の樹群』などを世に出していく。
しかし昭和44年(1969)夏、心筋梗塞のため逝く。59歳だった。
この作家の作品と人柄に惚れ込んだ森山さんは、同志らと図り、実行委員会を設立して自ら実行委員長となり、阿部の作品展を計画した。だがコロナ禍というアクシデントもあって、一度企画したのが流れてしまった。しかし3年経ってようやく開催が決まった。
会場は札幌市中央区北1西1、札幌市民交流プラザのSCARTSコート1階。会期は5月26日から31日まで。入場料千円。期間中の5月28日午後1時半から美術セミナー「阿部貞夫の生きざまとその画風」と題して森山さんが講演し、続いて代表作品のみどころ解説と、阿部貞夫が残した音声「独り立つ精神」が紹介される。またこの前日の27日午後2時からミニセミナーが開かれる。
「時間の都合で参加できない場合、グループでの要望があれば、午前中に対応しますので、ひと声かけてください」
と森山さん。
問い合わせは矢口敏春さん、電話090-6113-0767へ。
2023年5月19日
老楼快悔
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