新老楼快悔 第85話 成長した四人の孫に囲まれて
帰京する娘に伴われて、久しぶりに妻とともに上京した。ひとっ飛びで羽田空港へ。娘の夫君に迎えられ、車で都内へ。途中、いつも取材を手伝ってくれるSさんと会い、簡単な話を済ませて出版社へ。その後ホテルに入り、夜は誘われるままに娘夫婦の家へ。
娘夫婦といまは成人した男性の孫二人、それにやはり東京に住む息子夫婦と成人した女性の孫二人の合計八人が、われら老夫婦を囲んでの大パーティーとなった。夫婦で上京する時は、都合のつく人だけ集まるのだが、今回は娘の家庭で全員勢ぞろい。しかも豪華な料理は息子の嫁が一手に引き受け、車で運んでくるという豪華版で、雰囲気は一気に盛り上がった。
とはいえ一部屋に十人もの大人が座るのだから、話し声やらはしゃぎ声、笑い声がそこここで巻き起こり、和やかさを通り越した素晴らしい一時を過ごすことができた。
それにしても孫たちの成長ぶりに、改めて目を見張った。男性の孫は二人とも身長一メートル八〇近く。がっしりした体躯で、社会人としての風格を漂わせていた。それぞれ歩む道は異なるが、話す言葉にもいままでにない重厚さを感じさせられた。
女性の孫二人も、知性を伴う美しい娘に育った。自ら選んだ道はやはり異なるが、それぞれに目標を定めて貫こうとする姿勢がかい間見られて、遠い日のことを思わずにはいられなかった。
まだ幼かったこの四人の孫を一人ずつ連れて一泊二日の旅をした。順番を決めて、旅を終えると東京駅前でその孫を親に返し、次の孫を受け取り、また旅に出る。それを4人、続けた。一番上の孫だけは五歳から十三歳まで毎年夏、歴史の旅をした。
思い起こせば随分、荒っぽいことをしたものだと思うが、よくも両家の親たちは、この無謀ともいえる願いを聞き入れてくれたものだと、いまになって感じ入っている。
パーティーの真っ最中、一番年長の孫娘が側にきて、一冊の雑誌を差し出し、
「私の文章、載っているの。読んで」
と手渡された。見ると『群像』3月号。六〇〇頁を超えるぶ厚い雑誌である。頁を捲ると「随筆」欄に、「土鍋の蓋が割れて」という表題で、氏名入りの文章が掲載されているではないか。
一読して、凄い、と感じた。若い女性の意識の一端をかい間見る気がした。と同時に、女性が男性と対等に生きていける世の中が、ついに実現したのだという思いを強くした。
この一冊は、九十路に入ろうとする我が身にとって、思いがけないプレゼントになった。ありがとう、ありがとう、と心の中で何度もつぶやきながら、また幼き日の孫たちの姿を思い起こしていた。
2023年4月28日
老楼快悔
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