新老楼快悔 第82話 『麦叢録』を残した小杉雅之進
手元に箱館戦争を記した『麦叢録』の「乾」「坤」二冊の復刻本と、戦闘を描写した12枚の付図がある。この本を書き、絵を描いたのが小杉雅之進という幕臣である。この時、26歳。
実はこの小杉雅之進の曾孫、小杉伸一さん=横浜市在住=が咸臨丸子孫の会の幹部をしていた関係で知り合い、同家に多く残る雅之進の絵図を見せてもらう幸運に恵まれた。『麦叢録』に用いた絵図とほぼ同じものが一組そっくり残っていたほか、色彩を使ったマンガ風の絵が30点もあり、肝を潰すほど驚いた。
小杉さん、親友のカメラマン、寺井敏さんと相談して、戦闘絵と同じ場所を現在の視点で撮影し、それを並べて掲載し、文章を展開していく本を出すことにした。
咸臨丸が脱走した東京・品川沖をはじめ、蝦夷地噴火湾の「鷲ノ木着帆」、「峠下戦争」「蟠龍艦松前藩開戦」「回天、蟠龍福島攻撃」「開陽艦江差攻撃」と続き、さらに新政府軍の攻撃を「官艦五隻江差襲来」「官艦松前襲撃」「箱館港五月七日両軍烈戦」「十一日蟠龍左舷朝陽ヲ打没ムル」、そして「千代岡台場中島三郎助父子討死」と全部で15ヵ所を撮影し、文章を仕上げた。
さてもう一つのマンガ風の人物画も、榎本武揚とおぼしき絵のほか、榎本軍兵士の動向が面白く描かれている。工夫して「てんやわんやの箱館戦争」のタイトルでまとめて付録とした。
この本が『小杉雅之進が描いた箱館戦争』として出版されたのは2005年だから、もう18年にもなる。この間に小杉さんも寺井さんも亡くなった。本の方もほとんど売り尽くして、いまはネットで高値がつくほどになった。
先日、ある団体から、この本をもとに「箱館戦争」の講演をしてほしいという要請がきた。日程が空いていたので引き受けたが、毎月5月、6月はどうしても忙しくなってしまう。5月18日の五稜郭開城の日に近い土、日曜日には函館で五稜郭祭り、旧暦をこの日を新暦に直した6月25日には函館山麓の碧血碑前で慰霊祭が催される。
慰霊祭には榎本武揚の末裔をはじめ、旧幕府戦死者の末裔の方々が集まり、先祖を偲ぶ。私も、関連の書物を出している関係で、必ず顔を出すようにしている。
この碑前祭に合わせて、前日の6月24日午後2時から、五稜郭公園の箱館奉行所内で、私の講演会が開かれることになった。演題は「箱館戦争を戦った榎本武揚と土方歳三」。武士として一直線に突き進んだ歳三。死を覚悟しながら生き長らえた武揚の心境などを語ろうと、いまから胸を熱くしている。
箱館奉行所
https://hakodate-bugyosho.jp/
2023年4月7日
老楼快悔
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