新老楼快悔 第74話 鈴木邦男さんの訃報に接して
鈴木邦男さんが亡くなったのを新聞で知り、たった一度の出会いが意味する大事さを思い、心の中で冥福をお祈りした。
鈴木邦男さんは知る人ぞ知る民族派団体「一水会」の元代表で、評論家としてイデオロギーの枠を超えた言論活動を展開してきた。早稲田大在学中に民族主義運動に没頭し、作家三島由紀夫の自決に影響されて一水会を結成し、長く代表を務めた。後に武闘派右翼から新右翼に転じ、左派の言論人とも交流した。『言論の不自由?!』『憲法が危ない』『新右翼<最終章>』など多くの著書を持つ。
鈴木さんとは札幌の出版社、柏艪舎を通して出会った。そのころ鈴木さんは柏艪舎主催の講演会を定期的に時計台ホールで開催していた。
たまたま私と私が主宰している道新文化センター「一道塾」塾生による『北の墓 歴史と人物を訪ねて』上下が2014年6月に出版され、記念講演を仰せつけられた時、初めてお会いした。
白状するが私は、鈴木さんが「一水会」の元代表というだけで、身構えていた。だが名刺を交換した段階で、その杞憂は吹き飛んだ。話の仕方は丁寧だし、態度も穏やか。むしろ思想信条や価値観の違いを超えた国家観を語るその姿勢に共鳴させられた。
鈴木さんは私の講演が終わった後、こう感想を述べた。
「この二冊の本は北海道を開いた先人たちの足跡を克明に辿ったもの。北海道は開拓期以前からの歴史があるが、本著は人間を通じてそれを知ることができる好著です」
その言葉の一言一言が深くしみ込むようで、心から感謝した。
その夜、出版社主催の晩餐会に鈴木さんと向かい合わせの席になり、話が弾んだ。そこで私が新聞社に勤務していた時、三浦綾子さんを『泥流地帯』の取材で案内した話をしたことから、「ぜひ訪れたい」という話になった。
翌日、メンバー7、8人が二台の車に分乗して旭川の三浦綾子記念文学館へ。到着するなり鈴木さんは、館内をゆっくり見て回り、しばし三浦文学に酔いしれていた。
食事の後、旭山動物園に立ち寄った。これもどうやら鈴木さんの意向かららしい。私もよく、取材先で時折、何でも見てやろうという気持ちになることがある。
(よく似ているなあ)
と感じた。
そのことを、今度会ったら伝えよう、と思った。でも、それはできないまま、突然の別れとなった。安らかにと願うばかりである。合掌。
2023年2月7日
老楼快悔
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