新老楼快悔 第71話 「円空仏を配り平和を願う僧侶」

新老楼快悔 第71話 「円空仏を配り平和を願う僧侶」


 自作の“円空仏”を多くの人々に与えている僧がいると知り、会場の札幌市資料館を訪れた。寒い朝だったのに、大勢の人が訪れていた。
 壁に添う形で陳列台が設けられ、そこに高さ20センチほどの小さな仏像がずらりと並んでいる。立って合掌する僧形の像で、全部で500体ほど。粗削りで簡素な造りだが、どこか円空仏を思わす雰囲気が漂う。



 来訪者がその中から一体を手にして僧の前に差し出す。その仏像に丁寧にサインを入れる僧。
 この人は札幌市北区あいの里に住む仏師、山本耕雲さん(65歳)。新潟県の寺の次男に生まれ、僧籍を持つ身だが、江戸期に全国を修行しながら多くの木彫仏を残した僧・円空の影響を受け、札幌市に移り住んだ。そこを耕雲仏所と名づけて、仕事をこなしながら木仏の制作を始めた。丸太を買い求めてそれを小さく切り分け、ノミを用いて刻んで行く。一体を彫るのに一時間はかかる。
「一心一仏、ただひたすら彫ります」
 出来上がった仏像は、フシがあったり、虫食いがあったり、ワレがあったりして不揃いだが、それでいい。人間だって同じ人なんていないじゃないか。そんな思いで彫る。
 コロナ禍で延び延びになっていた配布展を、2020年に札幌市内で初めて開いたところ、多くの人々が集まってくれた。以来、半年に一度のペースでと思いながら、延びるなどして、今回が3回目になる。
 でも、なぜ苦労してまでこんな配布展を続けるのか。狙いはコロナ禍の収束、ロシアとウクライナの戦争の収束。すなわち世界が平和でありますように、という祈りから。そして最終目的は「夢殿」すなわち「救世観音堂」の建立だという。だがそこに到達できるかどうか、先は見えない。でもこの会場だけは静かな熱気が溢れていた。
 山本師は勤めのかたわら、NHK文化センター札幌教室で「古仏の願い~仏画と仏像」という講座を開いたが、この春からは道新文化センターで開講するという。
「自習で禅的瞑想や写仏ぬり絵も体験していただきます。教材は用意しますので、ご気軽に声をかけて下さい」
 わが身を仏に捧げてひたすら邁進するその姿に、ふと忘れ物を思い出したような不思議な気持にさせられた。




2023年1月17日


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