新老楼快悔 第68話 二つの展覧会に思う

新老楼快悔 第68話 二つの展覧会に思う


 過ぐる土曜日、少し早めに街に出た。札幌市内の中心部はコロナ禍だというのに、結構な人出だ。ふらりと入った道新本社一階のDO-BOXで、「どろ亀さん×C・W・ニコルさん追悼展 森の心、そして祈り」が開かれていて、吸い込まれるように中に入った。



 どろ亀さん、といったら覚えている方も多いだろう。東京大学教授なのに教壇には一度も立たず、富良野市にある東大演習林を歩き回った。帽子をかぶって地面を這いずり歩く姿が亀そっくりなので、そんなニックネームがついた。
「森林こそ教室だし、エゾマツ君やクマゲラ君は先生だし、恩師です」
 取材でお会いした時、そう話してくれた。そして、
「ノンフィクション作家さんですか。事実だけを書くって、大変な仕事ですね」
 ねぎらいの言葉さえかけてくれた。亡くなってもう二〇年になる。
 ニコルさんにはお会いしたことはないが、すべての生き物を尊んだ人物として心に刻んでいた。二人の笑顔の写真を見つめながら、しばらくその場を動くことができなかった。
 かでる27へ。ここで午後に講演をするので、時間を見計らって一階の展覧場に足を運んだ。ちょうど札幌市児童生徒の「社会研究作品展」が開かれていた。今年度の優秀作品が会場いっぱいに展示されている。壁紙一枚ものやノートにまとめたものなど様々だが、入ってすぐ、着眼の凄さ、対象の幅の広さに驚いた。



「校区を災害から守る為に」「有珠山の歴史と防災について」といった考察型。「札幌市110年」という回想型など興味深い作品。そうかと思うと「札幌丘珠事件やクマ出没から考える野生動物の共生とは」は最近の札幌市内に姿を現すクマ出没を踏まえたもので、現実味を覚える。
 はっと胸突かれたのが「視覚障がい者とともに生きる『見る』を助ける」。「見るを助ける」は標語として用いてもよい傑作といえよう。
「札幌市のゴミリサイクル」はゴミ処理問題の解決を目指す内容だが、「この雪はどこへ行く、大札幌VS大雪」や「北海道の食料自給率から考える日本の食生活」そして「安全な世界を目指すためには」「未来の日本を考える」はもう社会人の視点だ。懸命に書いたであろう文字を読みながら、次代を担う子どもたちがこれからもこうした感性を大事に育ってほしいと願った。
 それにしても我々大人は何をしているのか。現実を見つめると、劣化した政治と鈍化した社会…、ああ…。




2022年12月16日


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