新老楼快悔 第56話 道ノンフィクション集団の作品集

新老楼快悔 第56話 道ノンフィクション集団の作品集


 北海道ノンフィクション集団の作品『断面 北の昭和史』(柏艪舎)がこの夏、発刊された。体調を崩して入院生活からやっと解放された直後であり、これを機に代表を辞することにしていただけに、感慨無量な出版となった。
 集団が誕生したのは1980年暮れ。脇哲、沖藤典子、菊地寛、川嶋康男の諸氏とともに立ち上げた。初の作品は2年後に出した『凍野の残映』(みやま書房)。以来、メンバーが増えるなどの経過をたどる中で、6冊の本を出版することができた。40年間でわずか6冊。牛の歩みにも似た足取りだが、これを機に新代表の相原秀起氏にバトンタッチができて、心底、安堵している。
 今回の作品は表題通り、北海道の昭和がテーマになっている。戦火にまみれた昭和戦前、敗戦の混乱から立ち上がる人々、そして昭和戦後の特異な動向……などを主題に、メンバーが力を込めて書き上げた。うち1作は特別寄稿「魂 忠魂碑――道内戦没者の慰霊」(井上和男著)が含まれ入る。
 私は戦前の2・26事件で処刑された旭川出身の元陸軍大尉村中孝次を取り上げた。2・26事件とは1936年(昭和11)2月26日に起こった陸軍青年将校らによる蜂起で、完全武装の兵士らが将校に率いられて総理大臣官邸など6カ所を襲撃し、総理と間違えて秘書官を殺害したのをはじめ、内大臣、教育総監、大蔵大臣、前内大臣を殺害。主要建物を占拠した。世情は騒然となった。



 軍部は「戦時警備」命令を出すが、青年将校らは「我らの意向は天聴に達した」として占拠地に留まった。
 ところが翌27日早朝、突如、「厳戒令」が出され、蜂起軍は一転、叛徒とされる。28日には「奉勅命令」が出され、29日には復帰命令「兵に告ぐ」が出る。「原隊へ戻れ。抵抗する者は逆賊なので射殺する。お前らの親兄弟は国賊になると泣いているぞ」などと言われ、兵士らはすごすごと原隊に戻っていった。



 軍法会議は非公開で行われ、将校ら17人に対して死刑が宣告された。1審のみ、弁護人なしという一方的な裁判だった。
 処刑は二度にわけて行われた。二度目に回された村中は、妻や同志らに宛てて軍部の腐敗ぶりを克明に書いた長文の遺書を残し、さらに最初の処刑の模様まで書き、処刑されていった。
 東京都港区麻布の賢崇寺に「二十二士之墓」が建っている。二十二士とは処刑された19人と、事件後に自決した2人、そして陸軍軍務局長を殺害した相沢三郎中佐を含んだ数である。
 ここに立つと、激しいまでの歴史の変遷ぶりが偲ばれて、時代の持つ‟怖さ”を思わずにいられなかった。





2022年9月22日


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