新老楼快悔 第51話 犯罪の質が悪くなった!?

新老楼快悔 第51話 犯罪の質が悪くなった!?


 コロナ禍の中、札幌の地下街を歩いていたら、老人が近づいてきて、「しばらくだね」と声をかけられた。その声ですぐ思い出した。北海道警察捜査一課に在籍していたT元刑事だ。釧路で事件記者をしていた時からの知り合いで、後に転勤で札幌へ移り、定年退職した。年齢が近いせいもあって、何度か酒を飲み交わした仲だ。
 風貌は年齢相応に変わったが、眼光は鋭い。近くの喫茶店に入り、雑談するうちに元刑事はこんなことを言い出した。
「最近は犯罪の質が変わった。そう思わんか」
 うむ、と相槌を打つと、元刑事はわが意を得たりとばかりに話しだした。
「高齢者を相手に金を騙し取る詐欺野郎が増えて、増えて。犯罪の質が悪くなった」
 元刑事はかつて、犯罪者にだってそれなりの理由がある。だからそこんところを察してやらねば、というのが信条だった。「罪を憎んで人を憎まず」という名刑事だった。
「“おれおれ詐欺”だけは許せない。複数で手の込んだ策略を弄して相手を騙して金を詐取する。成功したら、ヤッタヤッタと喜び、その金で豪遊する」
 元刑事は、許せない、を何度も重ねてから、話を展開させた。
「昭和の初め、説教強盗というのがいたのを知ってるか」
「うん、知っている」と相槌を打った。この事件は大正末期から昭和初期(1926~1929)にかけ、東京府下で相次いで起こった。女性だけの家を狙って忍び込み、寝ている枕元に立ち、ナイフを手に懐中電灯で照らしながら、
「お金を出しなさい」と優しい口調で脅し、金を奪うのだ。そのうえで、
「この家は不用心です。錠を目立たない場所につけなさい。ぜひイヌをお飼いなさい」
 と、忠告めいた言葉を吐き、夜が明けだすと「電話線は切断しているので、走って交番に届けなさい」と言って、さっと姿を消すのだ。府民はいつ現れるとも知れぬ犯人を“説教強盗”と呼んで震え上がったという。
「これほどの悪党でさえ、自分の行為を恥じているからこそ、説教まがいの話をするんだ。いまの悪党は自分たちのやっていることに恥じらいはないのか」
 元刑事は憤懣を一気にぶちまけてから、
「じゃあ、また会おうよ。今度は一献傾けたいな」
 明るく笑って言い、割り勘の代金を支払うと、よろめく足取りで立ち去っていった。その後ろ姿が遠くなった“昭和”を背負っているように見えて、笑みがこぼれた。





2022年8月12日


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