新老楼快悔 第34話 プロパガンダ、真実を隠す怖さ
ロシアのウクライナ侵攻が始まって1カ月が過ぎた。この段階ではっきりしてきたのがロシア側によるプロパガンダ、つまり政治宣伝の凄さ。世界を敵にまわし、相手を誹謗しつつ、自分たちの行為こそ正義である如くに自国民を欺き続けている。
ふいに少年時代の太平洋戦争期に思いを馳せた。そういえばあの頃は、大本営発表をもとにラジオが「勝った、勝った、今日も勝った」と宣伝し、新聞も連日、1面トップに日本軍の戦果を伝えた。実際は、負け戦が続いていたのに、国民はすっかり騙され、勝利に酔いしれていた。
小国民といわれた私たち学童は、先生から「わが国は神の国だ。いざとなったら神風が吹いて、敵軍を滅ぼすから心配するな」といわれ、何の疑念もなくその言葉を信じて、大きくなったら兵隊になり、敵と戦うんだと決意していた……。
いま、こんな話をすると、笑われそうだが、手元に証拠の品々が残っているので紹介したい。戦時中の新聞にこんな見出しが見える。
「我が海軍激戦を展開中 大戦果を挙げつゝあり 敵強引の空母戦法 大勝に続け銃後生産戦(朝日新聞 昭和18年11月9日夕刊)
「硫黄島来寇の敵撃退 守備部隊、荒鷲奮戦」「全力を大出血戦へ 一億総進撃の秋到る」(読売報知 昭和20年2月18日)
「此の戦必ず勝つ 国民一致の完戦精神が基礎 鈴木首相」(毎日新聞 昭和20年4月8日)
一方のアメリカ側は日本本土の空襲に合わせて、日本国民に対して宣伝ビラを撒いた。これも手元にあるので要旨を綴る。
日本国民諸君 軍閥は防空壕の安全地帯から臆面もなく抗戦を慫慂してゐる。然し乍ら諸君の防空壕は死の玄関に過ぎない。諸君が抵抗を継続すれば、日々更に大きな戦慄を諸君にもたらすであらう。抵抗は戦慄すべき死を意味する。収束するよう要求せよ、これが祖国を救う唯一の道である。
雑誌も痛烈だ。アメリカは日本人を貶めてジャップと呼び、「愚かなるサル、ジャップは人間でなく動物だ」と宣伝し、野蛮な行動を指摘。日本側といえば邪悪で淫蕩な「鬼畜米英」と呼んで蔑んだ。凄まじい政治宣伝合戦が人種偏見戦争に連なったといえる。
今回のウクライナ侵攻は、いわばこじれた兄弟喧嘩みたいなものだが、それだけにやり口は残忍だ。この見通しのつかない戦争にどう対処すべきか。判断もつかないまま、恐怖がじりじりと迫ってくるのを覚える。
2022年4月4日
老楼快悔
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