新老楼快悔 第32話 『小説を旅する』を出版
このたび、『小説を旅する 北海道』(柏艪舎)という本を出版した。道新文化センターの「一道塾」で文章の書き方を学んでいる塾生たちとともに書き上げた、いわば作品集である。
スタートは5年前。取り上げる作品の舞台は北海道とする、登場する作家はダブらせない、という2点を約束事に、次のような難題を掲げた。
①文章は全体で2000字とする。②本文のほか、あらすじ、作家の略歴を数行程度でまとめる。③本文の中に3カ所に、取り上げる作品の中から数行程度ずつ文章を引用する。④その小説の舞台に必ず立つ。
この提案に、塾生たちはさすがに身構えたようだったが、「不特定多数」にも読んでもらおうという決意を込めたスタートとなった。
テーマが決まって取材が始まった。まず取り上げる本を読み、構想を練り、小説の舞台となる地帯を歩く。第一回は参考になるようにと私が書いた。高橋揆一郎『観音力疾走』。
講座は月2回。少し経って塾生たちは書き上げた作品を持ち込んできた。そこで塾生全員を前にその作品を読み上げるのである。このやり方には抵抗があったようだが、私はこう説明した。
「ここは習練の場。恥ずかしいことはない。直そうと思えばいくらでも直せる。間違って出版なんてことになったら、恥をかくのは書いた人じゃないか」
何回かの講座で表現方法や間違い箇所を指摘され、手直しされた作品が、パスすると、塾生から拍手が沸くこともある。ここでは塾生はライバルだが、敵意を剝き出しにするような人はいない。ライバルには違いないが、誰もが大切な同士であり仲間なのだ。
作品は最初、月刊誌「KAI」に連載されたが、2016年から電波に移行して、北海道マガジン「カイ」になった。以後、作品は毎月一編のペースで連載され、その数は60作品になり、いまも続いている。
この作品に着目してくれたのが出版社の柏艪舎。全体を「札幌・小樽編」「道央編」「道北編」「道東編」「道南編」の五地域に分類したうえ、ゆかりのある文学館や文学碑なども挿入するなど、わかりやすく編纂してくれた。そして待望の発刊。
作品を手にした時の塾生たちの笑顔を、忘れることはないであろう。そして、より感謝したいのは、これまでこの塾を守り育ててくれた歴代の塾頭や塾生たち。出版後に寄せられた温かい励ましの言葉に、ただただ頭を垂れるばかりである。
一道塾今年で28年―。
2022年3月18日
老楼快悔
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