新老楼快悔 第019話 オンラインにはまいったなぁ
コロナ禍の最中に、テレビ出演の要請がきた。制作会社から、NHK-BSで放送するという。歴史物の作品を数々書いてきたが、今回は「榎本武揚」に関わるものだという。
思えば榎本武揚絡みで、何度かテレビカメラの前に立たされた。といっても取材の一行が四、五人、自宅までやってきて、長時間かけて延々撮影する。放映される時はせいぜい1、2分。ひどく疲れを感じるのは、そのせいかもしれない。
今回はコロナ禍なので、オンラインで撮影したい。そこで撮影に必要な器具を送るので対応してほしい、という。
オンライン? と聞いて大いに面食らった。器具を送られても、機能も、操作の方法もわからない。とても無理です、と断ったが、相手は何とかしてくれ、と応じない。やむなく知り合いのN氏に頼み込んだ。
実は先般、N氏の要請で、一度だけ講演の映像を撮影している。こちらは自分がカメラに向かって話をするだけで、意外にスムーズにできたので、お願いしたのだった。
快く引き受けてもらい、撮影当日、予定の時間に赴くと、すでに撮影現場は手際よく整えられていて、すぐにオンラインを通じて相手と打ち合わせが始まった。いよいよ本番。ところが私の座り位置を巡って、
「もう少し右へ。あっ、行き過ぎ、左……」
と画面越しに指示される。体を何度も動かすうちに、何をどう話せばいいのかわからなくなってしまった。
「いまのところをもう一度」
「そうじゃなく、榎本の心境がどんなだったかを」
といった調子で、繰り返し繰り返し、たっぷり一時間半、ただひたすらカメラの前で話をした。途中で投げ出したくなるのを堪えて、何とかやり終えたが、以来、オンラインと聞いただけで、背筋が寒くなるほど嫌いになった。
一か月後、テレビ放映され、ほんの少しだけ出番があって、終了。想像通りだったが、番組自体はなかなか面白く、プロのやる仕事の凄さに感心させられた。
数日後、東京にいる孫娘から電話が入った。何事だろうと応じると、「私、今夜、NHKの“クローズアップ現代”に出るの」という。まだ20代の孫娘は小さなIT企業のリーダーをしている。キモを潰すほど驚いた。その夜、テレビを見た。孫娘はオンラインの前で、司会者の質問にきちんと受け答えしている。
凄い、と感じたが、本人にしたら日常的なことらしい。放送後、電話をすると明るい声が返ってきた。オンラインって、嫌だな、そう言いたい言葉を、やっと喉に呑み込み、時代遅れのわが身を叱りつつ、今後どうすべきか、ぼーっとした頭で考えていた。
2021年2月11日放送 NHK-BS ザ・プロファイラー
2021年12月15日
老楼快悔
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