新老楼快悔 第006話 よくやったね、陽葵ちゃん
先日、『文とおじいちゃんの歴史の旅』のお陰で、嬉しい話が舞い込んだ経過を書いたら、今度は会社の後輩にあたるY君から、思いがけない電話が入った。
嫁ぎ先の娘と相談して、孫の小学三年生の男の子と東京旅行を企画中なのだという。行く先は国会議事堂前広場と東京ドーム。それに桜田門。ホテルで泊まる1泊2日の旅だ。
国会前広場は戦前の2・26事件やら戦後のメーデー事件やら、全学連のデモ行動で女子大学生が揉み合いで圧死した歴史が重なる舞台。東京ドームは数々の名勝負を生んだ野球の聖地、桜田門外はかの大老井伊直弼が白昼、暗殺された現場だ。
「歴史の舞台をいっきにめぐる旅だ。いい案でしょう」
と自慢そうに言った。ところが一週間ほどしてまた電話が入った。
「あの計画、頓挫してしまった。孫がうんといわないんだ。コロナも収まらないし、辞めにした」
少し、しょんぼりして言い、電話が切れた。
そりゃあ、無理だよ、孫が行きたいというなら話が早いが、じいさん一人が張り切ったってしょうがあるまい、と思った。
何日かして先に紹介した山口陽葵さん(小学四年生)の母親から、
「娘と息子がおじいさんと仙台の旅をして帰ってきましたよ」
と言って「陽葵とおじいちゃんの旅~伊達政宗」と題する文章を見せられた。夏休み自由研究として学校に提出するのだという。
文面によると、陽葵ちゃんは弟の岳久君(小学1年)とともに飛行機で宮城県多賀城市に住む祖父母宅を訪れ、一泊した後、おじいちゃんと一緒に仙台の青葉城址を見学し、馬に乗った伊達政宗の像を見てから、東北新幹線で福島へ。そこから山形新幹線に乗り換えて山形駅着。ここではひいじいちゃんとひいばあちゃんが迎えてくれて、蔵王温泉に宿泊。ダム資料館、松島を見て、鳴子温泉で宿泊。翌日は間欠泉、岩手山の有備館を巡った後、仙台まで戻って政宗の墓である瑞鳳殿まで足を延ばしたという。
「このずいほうでんには政宗の家臣のはかもあります。家臣たちは政宗のあとをおってせっぷくした人たちです」
とあまり知られていないそんな話まで書いてあり、感心させられた。
最終日はおじいちゃんの家でいとこたちと遊び、仙台から帰りの飛行機に乗った。
「のるとき心配でしたが、スチュワーデスさんがやさしくしてくれたので、すっごく安心して、家に帰ってくることができました」
6枚の用紙に書かれた文章と写真を見ながら、この作品が提出先の学校から戻ってきたら、少女にとってはかけがいのない「生涯の宝物」になるに違いない、と心から拍手を送った。
『文とおじいちゃんの歴史の旅』合田文・合田一道 著
2021年9月10日
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