老楼快悔 第96話 「江差追分」と「君の椅子」と
昨年7月に亡くなった「江差追分」の名人、青坂満さん(享年88)の銅像を建立しようと江差町の有志が建設委員会を設立し、資金集めに乗り出したと、北海道新聞(2021年3月9日)が報じた。建設費は750万円という。
青坂さんは1968年(昭和43)の第6回江差追分全国大会で優勝し、江差追分の保存と伝承に尽力した。「潮の匂う青坂節」と称され、道文化賞、北海道新聞文化賞などを受賞した。
何度かお会いしたが、いつも丁寧に応対してくれた。鷗島の自宅を訪れたこともある。一度だけ、追分会館で観光客相手に歌唱指導する場面を見た。大きな譜面を背に、細かく解説してから、一節、一節、喉を転がすように歌う。その声が潮風かさざ波のように聞こえて、感動したものだ。
銅像は等身大で、台座を含めた高さは2.6メートル。命日の7月14日に、同町中歌町の江差追分会館正面前に建てられるという。銅像が建ったら会いにいこうと思いながら、生前のあのにこやかな表情を瞼に浮かべている。
北海道新聞(同年3月13日)報道の話題をもう一つ。東日本大震災から10年、被災3県で震災のその日に生まれた赤ちゃんに「希望の君の椅子」を贈ったのが民間団体「君の椅子プロジェクト」。その椅子を受け取った子どもたちが震災にも負けずすくすく育っており、贈り主のプロジェクト代表、元道副知事の磯田憲一さんの喜びはひとしお、と紙面は伝えている。
このプロジェクトは磯田さんが旭川大大学院の客員教授だった2006年、ゼミの院生たちと考え生み出したもの。東川町が計画に賛同し、この年に同町で生まれた新生児に「君の椅子」が贈られた。氏名を刻んだ”世界でたった一つの君の椅子”だ。その後、剣淵町、愛別町など8町村が参加、この間に個人の「君の椅子倶楽部」も参加した。
2011年、東日本大震災が発生すると、被災地3県128市町村に便りを出し、この寄附金でまかない、樹齢100年超の道産ナラ材を用いて名入りの椅子を作り上げた。磯田さんが3県に赴き、椅子を家族に手渡し、「生まれてくれてありがとう」と祝福した。
磯田さんと会うたびに決まって「君の椅子」の話になる。「贈る先の町村がまた増えたんですよ」。目を輝かせて語る言葉に、心に染みる行為とはこういう息の長い活動なのだと教えられる。
2021年3月19日
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