老楼快悔 第69話 『裂けた岬』がNHK BSに登場
思いがけない偶然が重なった。第62話で『裂けた岬』の改訂版
『生還』の出版について書いたが、こんどはNHK BSプレミアムでこれが取り上げられることになったのである。
『生還』の方は最終校閲も終わり、同時発売の英訳本の翻訳を待つばかりだが、映像の方はコロナ禍騒ぎの中に急に決まり、撮影チームが7月中旬に拙宅を訪問し、丸一日がかりの撮影になった。
題名は「ダークサイドミステリー」の「“ひかりごけ”の衝撃〜現代の私たちの物語〜」。放送は9月3日午後9時から1時間。ディレクターのインタビューに応答しながら、発刊した当時を思い返していた。
この作品は平成6年(1994)4月、北海道新聞を退職した直後に出版された。長い歳月をかけて書き上げたものだが、発売してその売れ行きの凄さに驚かされた。
実は退職前、この出版を同僚たちにだけは伝えていた。それが共同通信記者の耳に達し、発刊前に取材を受けた。その原稿が共同通信から各社に配信されたため、何社もの記者の取材を受けた。その挙げ句、発刊当日の紙面に掲載されたのである。新聞を読んだ人たちが書店に押しかけて買ってくださった結果だった。
その日昼過ぎ、所用があって飛行機で羽田に着き、なぜか気になって出版社に電話をしたら、編集者が出て、大声で怒鳴ったのだ。
「た、た、大変です。重版です」
重版とは文字通り版を重ねる、つまり刷り増すという意味である。発売初日に重版になろうとは。編集者の驚きにのせられて、頭がぼーっとなったものである。
この本を書いたことで、「人間の生と死」をテーマとする講演会に何度も呼ばれるハメになった。テレビ朝日の「おどろきもものき30世紀」にも取り上げられ、上京してテレビ局のスタジオに入り、三宅裕司さんの司会で、黒鉄ヒロシさんと同席して事件の模様を語った時は、さすがに緊張した。
昭和19年(1944)に起こったこの事件を知ったのは、釧路で事件記者をしていた昭和38年(1963)。それから30年を経た平成になって出版され、さらに26年も経過した令和になって再び脚光を浴びようとは。
本って生き物みたい、とおののき、冷や汗をぬぐっている。
NHK ダークサイドミステリーの詳細ページ
https://www.nhk.jp/p/darkside/ts/4847XJM6K8/
2020年8月28日
老楼快悔トップページ
柏艪舎トップページ