老楼快悔 第61話 おれおれ詐欺の被害者にされた

老楼快悔 第61話 おれおれ詐欺の被害者にされた


 これ、筆者が体験した本当の話。
 コロナ騒ぎ真っ只中、東京にいる息子にまとまった金を送ろうと、近くの札幌・月寒中央通郵便局へ出かけた。送り先の通帳番号を伝えたところ、窓口の事務員が「警察にお知らせしてもいいですか」と言う。ははぁ、と直感した。最近は“おれおれ詐欺”が多発している。高齢の爺が息子に金を送るというのは、まさに犯罪を思わす構図ではないか。
 それを言うと「そうなんです。警察からも必ず連絡するように言われておりますので」と困惑して答えた。局長が替わって応対に出た。拒絶すればしたで面倒なことになると思い、連絡するのを了解した。ほどなく若い警察官二人が顔色を変えてやってきた。私は警察官に挟まれる形で、狭い部屋へ。局内にいた数人の客が好奇の目でこちらを見る。
 (あの爺さん、詐欺にやられたんだよ)(馬鹿だね、あんなに報道されてるのにさ)
 そんなひそひそ話が聞えてくるような雰囲気だ。警察官が聞き質す。「送る相手はどなたですか? 息子さん? 何のために送るのですか? 相手の電話番号は?」。
 いささか辟易して、息子の携帯電話にかけてみたが、どうしたことか繋がらない。嫁の電話にも、孫娘の電話にも、つながらない。
 この段階で私は、はた目に、おれおれ詐欺にひっかかった被害老人そのものに見えたであろう。そこへ刑事が二人やってきた。うち一人は女性である。また同じような質問が続く。その仕事ぶりの必死さに、その昔、事件記者をしていたころを思い出した。刑事の一番の仕事は「聞き込み」。関係者から話を聞くのが捜査の第一歩、なのである。
 そんな話をしているうち、不審が解けたらしく、刑事に呼ばれた局長が顔を出し、無事に送金の手続きが取られた。その時、嫁から電話が入ったので、事情を告げて刑事に替わってもらった。刑事が「この手の事件があまりに多いので」と笑いながら話している。
 私を元事件記者と知った女性刑事が「こんなことで発覚するのは100件に1件あるかなし。でも、この方法しか防止策がないのです。広報の意味からも書いてください」と笑顔で訴えた。そうなんだろうな、と思いながらも、それにしても事情聴取の1時間には、ちょっとだけ、まいったなぁ。
















 
2020年6月26日


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