老楼快悔 第54話 川柳という名の“うさ晴らし”
川柳が好きで、よく作句をする。若いころはペンネームを用いて北海道新聞の「川柳欄」に投句して、密かに楽しんでいたものだ。
世の中が少し騒がしくなると「川柳欄」は華やぐ。最近はことに政治がらみのものが多い。庶民のささやかな抵抗というか、うさ晴らしというか。以下、最近、「どうしん川柳」に掲載されたのを拾ってみると――。
カリカリと血税かじるねずみ年
令和2年、西暦2020年はねずみ年。この年に限ったことではないが、政治家と官僚の手法を巧みに皮肉って、思わずうまいなあ、と唸ってしまう。
近年は外交を通じて、安倍総理とトランプ大統領を詠んだ句が目立つ。
星条旗独善万国旗唖然
漢字だけで詠んだ一句だが、極めて芸術性が高い。続いて日米の親密ぶりを突いた我らが同志の視点は、まさに下層国民の思いを代弁するものだ。
ウインウイン民の苦しみ世の嘆き
外交面で言うなら北朝鮮の拉致問題も、ロシアとの北方領土問題も、らちがあかない。
ご破算で願いましては北の島
おいおい、冗談じゃないぜ。ご破算にされちゃぁ、かなわないよ。
それにしてもこのところの政治は、森友、加計、桜と難題だらけ。ある女性評論家は「政治が劣化した」と述べたが、同感だ。こんなに迷走する政治を見たことがない。漢字ばかり並べて、ピシャリと切り捨てたのが次の一句。
問答無用職権濫用国会座
鋭く冴えわたる叫びに、庶民の喝采が聞こえてきそうだ。次に辛辣な句を三句。
自由自在あまた法案過半数/一強に二驚三驚さらされる/憲法も閣議決定しかねない
こうなったら野党だって黙っていない。国会の論戦は一気に白熱化する。だが内閣は揺るがない。とくに総理は堂々と対抗する。「
シラを切る桜吹雪がお見通し」なのに、
丁寧に長口上のはぐらかし
そのうえで「
四字熟語改ざん隠蔽記録破棄」なのだ。しかし政治の闇は次第に明らかになり、自殺官僚の妻が遺書の公開に踏み切った。
政権に正義の鉄槌下す手記
もはや「
驕る政権独善暴挙のその果ては」と思いきや、新型コロナ菌が世界を覆い尽くして、何もかも吹っ飛んだ。
疫病神もりかけ桜コロナ菌
かくて「
マスクしてカラオケ歌う羽目になり」という始末。つい先日までは電車に乗ると満員の客がスマホを見つめて「
静けさや座席スマホの無言劇」だったのに。
コロナ菌を恐れて、家の中でじっと息を潜める日々と比べたら、こっちの方がまだ健康的だった? いや、これは、失礼申した。
(引用句は北海道新聞の「どうしん川柳」欄に令和元年から令和2年4月までに掲載されたものです)
2020年4月27日
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