老楼快悔 第53話 「遺書」を公開した妻と元NHK記者の追及
森友問題がまた息を吹き返した――、そう感じた。この問題で自殺した財務省近畿財務局職員の遺書が、3回忌を迎えて妻により公開され、その詳細が「週刊文春」(令和2年3月26日号)に報じられたのである。
雑誌を手に取り、「妻は佐川元理財局長と国を提訴へ」「森友自殺財務省職員遺書全文公開 すべて佐川局長の指示です」の見出しに添えられた大阪日日新聞、相澤冬樹記者の名前に、おおっ、と声を上げた。
相澤記者は元NHK大阪放送局の記者で、森友問題を取材、スクープを連発した。その敏腕記者が突然、記者職をはずされて、2018年8月末退職、大阪日日新聞記者に転身した。以上はインターネットで知った。その時の私が抱いた感想は、真のジャーナリストならこのまま引き下がるまい、というものだった。
それから一年半、亡き職員の妻が3回忌を迎え、不誠実な財務省の態度に、「これでは夫は浮かばれない」として、佐川元局長と国を相手どって提訴に踏み切った。同時に相澤記者は、自身の勤める大阪日日新聞に記事を掲載するとともに、「週刊文春」に写真3頁、本文12頁にわたる詳細な記事を掲載したのである。
文章を読んで、亡き職員がいかに理不尽な命令を受けたか、上司の佐川局長が首相の意向を忖度してどう動いたか、そして想像を絶する官僚組織の実態が綿密に記されていた。
この財務局職員の死の原因は、首相が国会で「私や妻がこの問題に関わっているということになれば、間違いなく総理大臣も国会議員も辞めます」と発言したのを、佐川理財局長が忖度して、首相や首相夫人の名前の出てくる文章はすべて削除したとされる。その経緯を職員は、「修正作業の指示が複数回あり、現場として私はこれに相当抵抗しました」
「(近畿財務局の)管財部長に報告し、当初は応じるなとの指示でしたが、本省理財局の総務課長はじめ国有財産審理室長などから管財部長に直接電話があり、応じることやむをえないとして、近畿局長に報告したと聞きました」
「本省から出向組の次長は『元の調書が書き過ぎているんだ』と修正が悪いこととも思わず、あっけらかんと修正作業をして、差し替えたのです」
「これが財務官僚機構の実態なのです。パワハラで有名な佐川局長の指示には誰も背けないのです」と綴っている。
職員はさらに「元はすべて佐川局長の指示です」「国会では、詭弁を通り越した虚偽答弁が続けられた」と書き、「謝っても、気が狂うほどの怖さと辛さ。こんな人生ってなに?」と疑問をなげかけながら、逝ったのである。
職員を死に追い詰めたものは何か。妻の提訴とそれに基づく相澤記者の政治の闇を突く報道により、人々の政治を見る目がひときわ険しさを増した。「政治の劣化」が叫ばれるいま、目を凝らしてその推移を見つめていきたい。
■参考記事■
「すべて佐川局長の指示です」――森友問題で自殺した財務省職員が遺した改ざんの経緯【森友スクープ全文公開#1】――文春オンライン
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2020年4月17日
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