老楼快悔 第52話 コロナという目に見えない恐怖
新型コロナウイルスの蔓延に、国内はおろか世界が振り回されている。まさに「コロナ戦争」たけなわだ。抵抗力の弱い高齢者などは、罹ると死に至る恐ろしい感染病だが、正体が目に見えないものだから、始末に負えない。
でももし、その正体が見えたらどうなるか。人から人へと病原菌を拡散されて、のたうち回る病人が続出し、パニック状態に陥り、「医療破壊」を起こすだろう。歴史を翻ると西南戦争に出征し、凱旋した屯田兵により持ち込まれたコレラはあっという間に蔓延し、“西郷のたたり”と恐れられたそうだ。
今回は北海道が真っ先にコロナの感染地となり、道知事は早々と「非常事態宣言」を出した。それからというもの、筆者の住む札幌の街はひっそりと静まり返り、息をひそめて暮らす毎日になった。
先日、久しぶりに書店に出かけた帰り、タクシーに乗ったら、運転手氏が開口一番、こう言い放った。
「いやぁ、参りました。見渡してもお客さんがいないんですよ。だから日中は日用品を扱うマーケットの前で、客を待つんです。短い距離で稼がなきゃならないんです」
「夜はどうですか」と質した。
「ススキノにも駅周辺にも、人がいないんです。えっ、若者? いないんだよ。どこへ消えたんだろうと思うほど。もっとも若者は車に乗らないから。でも街は死んだみたい」
「飲食店はどうなってるんですか?」
「昨夜、ススキノから飲み屋の女将を乗せたら、女将が言うのに、今日は誰もこないので早じまい。コロナってやつ、早くいなくなって、って怒鳴ってました」
プロ野球の開催をはじめ多くのイベントが延期や中止になった。東京オリンピック、パラリンピックの開催も一年延期になり、札幌で行われることになっているマラソンも、どうなるかわからない。
家に閉じこもったままの庶民らは、身動きもできないままテレビにかじりつく。プロ野球のオープン戦の無観客試合をGAORAで見るなどして過ごす毎日。ありがたかったのは大相撲3月場所。大阪で無観客でやり抜いてくれた相撲協会の決断が、暗くなりがちな世相を、いささかでも和ませてくれた。しかも新大関の朝乃山の誕生という結果を招いた。昇格には「甘い」という声もあるけれど、いいじゃないか、という気分だ。
2020年4月7日
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