『地方が輝くために』発刊記念 小磯修二先生インタビュー

『地方が輝くために』発刊記念 小磯修二先生インタビュー

2013年11月発売の『地方が輝くために 創造と革新に向けての地域戦略15章』
の著者、小磯修二先生に本書刊行後の反響についてお話をお伺いしました。


         (著書『地方が輝くために』を手にする小磯修二先生)


〈若い世代の地方への関心〉

編集部 『地方が輝くために』が刊行されて数ヵ月が経ちますが、反響はいかがですか?

小磯修二先生(以下「小磯」) 若い人たちからの反響が意外にありましたね。この本を読んだことで地方への関心を深めてくれたという。
 
編集部 それは嬉しいですね。

小磯 一つの驚きでした。特に、若い世代は世の中の動きに対して無関心とか、あまり発言しないと言われていますけれども、意外と私が関心を持っているテーマに共鳴してくれる人が多かったですね。最近の新聞社のアンケートとかを見ていても、二十代あたりの若い人で地方に関心を持っている層が増えてきていますね。データを見ても、社会的に何か関わりたいという社会への関心が、二十代くらいの若い層ほど高まっています。
 いきなり世界的な、グローバルな社会で実感を持って動くというのは、それなりに社会的経験を積んでいかないとなかなか難しい。
 
編集部 そうですね。

小磯 それに比べて地方は身近なコミュニティや、自分のふるさとの地域に関心を持つのは、社会に関わっていきたいという意識と少し共通する部分があるのかなあと思います。
 それともう一つは、今の若い世代というのは、私たちの世代に比べれば、将来に対して不安が強いと思うのです。私の若い頃は、どんどん社会が成長して、経済的にも発展するし、人も増えていたし、将来に対する不安というのはあまり感じることなく、ただひたすら夢を追っている時代でした。無謀と思われるくらいの高い希望と夢を持っても、手ごたえを感じられるようないい時代でした。

編集部 ええ。

小磯 それに対して、今の若い人たちが将来のことを考えた場合、非常に不安だと思うのです。人は減っていく。人が減るなかで発展していくのはなかなか難しい。そうなると、いったいこれからどんな時代になっていくのかと。しかも高齢社会で若い世代が上の世代を支えていかなきゃならない。なんでわれわれが、という不条理な思いもあるでしょうね。
 そのような将来で果たして大都市に向かって夢が実現できるのだろうか、そういう流れのなかで、地方の意味、意義というのかな、そういうことも改めて彼らは感じ取ってくれてるのかなと思いました。

編集部 自分でなんとかしよう、みたいな感じなんでしょうか。

小磯 やっぱり、社会的な関わりを実感できるという意味で地方に関心を持っているのでしょうね。
 最近も、東京で仕事をしたいと考えていた学生が、地方への関心を持ち、地方で仕事に就くという動きがありました。本書や私の発言が地方へ関心を持ってくれるきっかけになったとすれば、地方に軸足を置いて活動している私としてはうれしいことです。


                     (東京遠景)


〈本当の住民参加とは何か?〉

小磯 地域の活性化を真剣に考えている層の多くは行政ですね。地方自治体の政策に関わっている人たちからの関心が大きかったです。この本を出したことがきっかけで、何回かそういう人たちに招かれて勉強会などの場を設けていただきました。そのときにどういうところが面白くて、どういうところがわかりづらくて、どういうところに共感して、ここはちょっと違うというような印象を受けたのか、いろいろ意見を聞くことができ、いい機会になりました。
 自信を持って政策を説明し、きちっと地域のことを分析し、そこを科学的に見つめることで説得力のある政策づくりができる、そういうところが大事だ。だから改めて勉強しなければならないとおっしゃってくれる方がけっこういました。

編集部 なるほど。

小磯 パブリック・インボルメントというくだりがありまして(p179)、地方自治体の役割ですね。現場で住民に向き合っている人たちは、第12章で書いた「住民参加」だとか「住民による地方行政」と言葉では言うのですが、現実にはどうしたらいいのかと頭を抱えていることが多いようです。今、日本で行なわれている「住民参加」というと、住民の声を聞いたという形だけのパブリックコメントでホームページに意見を募集することが多い。でも、それを見て意見を出す人はほとんどいない。

編集部 そうですね。

小磯 住民の声を聞き入れて、住民の声によって行政、政策づくりを進めていくというのは大切なことですが、現場で実際にやるのは口でいうほど簡単なことではない。まさにギャップを感じているのですね。そのような経験のある人からは、本書第12章の「パブリック・インボルメント」、“住民参加とは何か”というようなところを、アメリカなどでの事例と私自身の経験を紹介し、わかりやすく類型化して書かれていて大変面白かったという感想もいただきました。
 この本では理念の大切さとともに、地域戦略を伝えています。戦略として、実践的な経験をわかりやすく伝えていくことも大事なことではないかと思います。


〈地方とはなにか?〉

編集部 ほかには何かありますか?

小磯 あとは観光ですね。観光政策というのは産業戦略として進めなければならない。これまでの観光は人を集める、集客という発想でしたが、これからは外からの消費を地域の産業と雇用に結びつけていく戦略が大事だということを本書で書いています。その点が、これまでの観光と違う取り組みをしなきゃならないと感じた、という声が多かったですね。
 私が今までに取り組んできた研究成果や実践的な経験というものを集約的にまとめてこの本に書いていますので、そういうところが関心をもたれたところかなと思います。

編集部 なるほど。

小磯 それから私の活動のミッションや私自身がどういう活動をしてきたのか、本書を読んでわかったという感想もありました。
 たとえば指導している学生や個人的に知り合いだった方々、断片的に私のことを見ていた方からこのような感想がありました。釧路での実践的な活動が臨場感あふれるような感じで書かれているので、理解しやすかったという感想もありました。
 釧路の私自身の経験をこまかく書くのはどうかなという気持ちもあったのですが、読まれた方からは物語のような面白さがあったという感想をもらいました。

編集部 釧路時代の話も興味深いですよね。

小磯 実践的に自分自身が経験して印象に残ったことをそのまま伝えていくということも大事なことだと感じました。
 あと、北海道以外の地域からの反応もありましたね。私はたまたま中央アジアとか海外での経済協力活動をやっているので、その仲間にこの本を紹介したのです。アフリカとか東南アジア、南米など貧しい国々で国づくり、地域づくりを進めていくときに、彼らの経済発展に日本の経験を役立ててもらうには何が大事なのか、日本の政策を伝えるにはどうすればいいのか。日本人としてそういう活動をするときに、日本の経験を知らないと非常に困るのです。海外で活動している方からも読んでくれたというお話を聞きました。

編集部 うれしいですね。

小磯 この本を出してから、勉強会の場でもそうですが、「結局、地方ってなんですか?」という基本的な問いかけがありました。本書でも書いていますが、決して田舎とか農村だけが地方というわけではなくて、市場原理のなかでヒトやモノ、カネが集積していく大都市圏、そことある程度距離のハンディのある地方部・地方圏、そこを地方とイメージしています。したがって、日本のなかで言えば北海道も地方です。ただこれは重層的で、北海道という地方の中で議論すると、札幌は集積圏で、釧路・根室が地方となりますね。そういう見方が大事であると。
 今回、千葉県の方がこの本を読んで非常に面白かったとおっしゃってくれました。その方も地方という立場での苦しみとか悩みがあり、そういうなかで地域活動をしておられます。
 そこで改めて考えさせられたのは、地方という立場での視点はほとんどの日本の各地域において必要な視点じゃないかなということです。北海道から見ると、関東圏は大都市圏じゃないかと思うでしょう?

編集部 そうですね。

小磯 でも実はそうではなくて、関東圏の中で見ると千葉も地方なのです。千葉の地方都市で活動していると、東京圏との格差とかハンディとか、地方としての独自の視点や取り組みが必要なわけです。そういうことも新しい勉強でしたね。あとは、九州からも反応がありました。
 北海道からの視点を中心に書きましたが、意外に北海道外からの反応が多かったですね。


〈なぜ地方にこだわってきたのか〉

編集部 小磯先生が地方にこだわって活動されてきた一番の理由はなんでしょうか?

小磯 私の若い頃は七〇年安保闘争が盛り上がっていました。戦後の急激な成長のなかで「国とは何か」「社会とは何か」という問いを突きつけられました。それに対して若者が、いびつな形ではありましたけれども、真剣に向き合った時代でした。そんななかで私は、大学生として青春時代を送ったわけです。だから私にとっては国や社会という全体に、どう個人として、個がかかわっていくのか、そこに強い関心がありました。また大学の研究者の本を読んだり大学での講義などを聞いていると、気になったのが目線の差です。

編集部 目線の差ですか?

小磯 私が大学時代に影響を受けた研究者に佐伯千仭(さえきちひろ)先生という刑法学者がいました。私は法学部に在籍していたのですが、法律にはあまり関心が持てなかったのですが、たまたま佐伯千仭先生の刑法学だけは、どういうわけか面白かった。実はそのとき、佐伯先生は京都大学ではなく、同じ京都の私立大学で教えていたのですが、そこまで講義を聞きに行きました。彼の刑法理論は、いわば“貧者の刑法学”です。
 
編集部 どういうことでしょう?

小磯 分かりやすく言えば、ひょっとしたら自分も物を盗むかもしれない。もしぎりぎりの状態になったら、殺人だって犯すかもしれない。人間とはそういうものだという立場で刑法を解釈し、理論を組み立てたのです。

編集部 なるほど。

小磯 人間味あふれる刑法学だと感じました。学問というのはそうあるべきだなと感じたのです。ある程度の高等教育を受けた者が社会に関わっていくなかでは、そういう視点を持たなければいけないと。そこでは、障害をかかえている方にどのように向き合うのかというのも大きなテーマですが、それと同じように、これを空間に置き換えたら、ハンディのある地域、弱者としての地方にどう向き合えばいいのか。しかし、そういう議論、研究はあまりないのではないか、そのような漠とした地域への関心が最初でした。

編集部 そうだったんですね。

小磯 同じ地方でも貧しいところもあれば素晴らしい魅力のあるところもある。空間に視点を置いたそういう見方というのは、まだまだ議論されていない分野じゃないかなと思いました。そういう関心を持って、地方をフィールドにできれば、大学時代に感じたような問題意識を自分なりに受け止めて、勉強や活動ができるような社会人になれないかな、とおぼろげながら思っていました。しかし、そういうものを受け止めてくれるような研究機関とか研究所はなかなかありませんでした。
 結局大学の機関ではなくて、行政機関に入りました。どこでもよかったのですが、地域への関心が強かったことから、たまたま縁があって北海道開発庁という、今はなくなりましたが役所で仕事をするようになりました。そのあと国土庁という役所ができて、そこで国土計画の仕事にも関わりましたが、次第に北海道への関心が高まり、将来は北海道でと心に決めるようになりました。


                     (美瑛の丘)

 
〈戦後から現在にいたる地方の変遷〉

編集部 グローバルに地方の問題に取り組んでいらっしゃいますが、地方の変化をどうご覧になっていますか?

小磯 やっぱり地方が活性化していくためには、その地方を包む国全体が力強さを持っていなければなりません。地方だけで単独で輝くことは難しい。したがって、基本的には国というものをどういう形で発展させ、活性化させるかが重要になってきます。トータルな外交から防衛までを含めた国の力が必要だし、それを支える政治の力も経済力も、また大学を中心とした研究者たちの知恵の部分もトータル的に必要になってくる。そういう意味では、地方だけでは限界があるのも事実です。
 日本は、戦後のこれだけの先進国にまで発展してきましたが、その一方で地域間の格差も生まれました。大切なのは地域間のバランスの取れた発展です。高度成長期には、一方で日本は地方の拠点開発など思い切った国土政策を進め、それにより地域間格差は急速に縮小していきました。しかし、90年代以降は、市場原理を重視する政策が重視されてくるようになり、大都市圏と地方圏の格差は開いてきています。バランスの取れた健全な発展を進める国土政策は次第に影をひそめてきているようです。しかし、戦後の歴史を見れば、日本という国は、地方へのきちっとした目配りがあり、質の高い国土政策が展開されてきた国だと私は思います。
 ただ、日本の場合はこれまでは国、中央政府がその政策を主導してきたという側面は否めません。

編集部 はい。

小磯 しかし、これから国は財政環境も厳しくなる。国に頼ることはできない時代になります。各地域がバランスよく独自の魅力を打ち出しながら発展していく。地方が主体的に責任を持っていく時代だと思います。
 「主張」と「責任」と本書でも書きましたけど、責任のほうが大事でしょうね。大切なのは地域全体で連携していくことだと書きましたが、連携というのは実は難しい。地方では結構足を引っ張り合うこともあるので、一緒にみんなでやることが自分にとっても互いに得になるのだというしたたかな地域戦略を共有していくことも必要です。


〈震災復興について〉

編集部 話は変わりますが、外から見ている印象では、震災の復興はほとんど進んでいないように感じるのですが、小磯先生からご覧になって、今後どのようにしていけばいいと思われますか?

小磯 私も同じような思いですね。大震災があって、当初議論されたのは当面は復旧、それから復興。復興したあとは未来を先取りする新しい地域づくりを東北からというふうに段階的に進めていく、ということでした。しかしこの三年間を見ていると、私も去年はかなり被災地を回りましたけど、復旧から復興に進もうとしながら、再びまた復旧に戻っている。たとえば、被災された方たちは仮の住まいの形態というのが二年経ってもなかなか解消されない。移転の問題にしても、なかなか地域の合意が進まない。制度的な難しさとかあるのでしょうが。行って驚くのは、これは岩手も宮城もそうですけど、ダンプカーだらけで、巨大な構造物がいっぱいできている。公共事業がすごい勢いで進んでいます。防潮堤問題も起きています。自治体も目の前の予算消化に追われているという状況のようです。

編集部 岩手県の田老地区にもすごく高い防潮堤がありましたが、今回の津波は防げませんでした。

小磯 どのような高い防波堤をつくっても限界があることを教えてくれたのが東日本大震災だと思います。大事なのはきちんと逃げるための仕組みであり、そのために必要な道路であり、施設です。構造物を作ることが先行してるとすれば、それはよくないと思います。

編集部 どこかおかしいですね。

小磯 復旧から復興、未来に向かって新しい地域づくりをという目標があったのですが、三年経過して、残念ながら後退してきています。

 
〈地方で活動する方へのメッセージ〉

編集部 最後に、地方で活動する方へのメッセージをお願いします。

小磯 地方は面白いということです。司馬遼太郎は、一万人に一人が立ち上がって、明治維新を成功させたと言っています。だから人口一万人の町であれば、一人で革命を起こせる。社会とか地域とか企業もそうですけど、個の力っていうのは大きいのです。小さな地域だったら一人でも変えられる、革命を起こすことができる。そういう気持ちを持つことが大切です。大都市の目に見えない巨大な仕組みの歯車で埋没していくより、目の届く、自分の力で変える実感をもつことができる、そういう人生のほうが面白いと感じられれば。そういう人たちにとっては、地方って最高じゃないかな。
イタリア語でカンパーニズモという言葉があって、二十キロ圏くらいの広がり、自分の目に見える範囲のもの、そこで生産されたものしか俺は食わないよ、みたいな地域主義です。でも、それをきっちり貫いていくことで、地域の魅力と価値が増す。そこでおいしいものがあれば、食べさせないのではなく、「食べたけりゃ来い」と。それで、「来た以上は泊まれ」と。それで地域に消費が生まれ、お金が循環し、雇用が生まれるのです。
フランスでは、テロワールという言葉がよく使われます。英語で言う、自分のテリトリーですよね。自分の領域、と。「マイ・オウン・ランド」みたいな。この自分のテロワール、これはもう世界最高だと。ここで生産されたものは、パリのやつらになんか味がわかるわけがないと。ただ、もしわかるやつがいれば、来ればいい、ごちそうしてやるから。その代わり、金を落としていけということですね(笑)。

編集部 それはいいですね。

小磯 ぜひ、みなさんも地方にこだわってください。

編集部 ありがとうございました。

                   (イタリアの田舎)